葬送吟詠

 暗さに沈んでいくのは心地が良い。

 どす黒く染まった空が、やけにきれいに見えた。雲の切れ間もなく真っ暗な夜はどこまでもやさしく包んでくれるようで、サヨリはほっと息をつく。強張った体が弛緩する瞬間が一番危ないのだと言ったの ...

葬送吟詠

 この世界には、“知らなくてもよいこと”がある。
 だから、“聞かなくてもよいこと”もある。

 

 逃げ出そうとした足に斬りつける。とりあえず、足止めが肝心だ。逃げられてしまっては元も子もない ...

終古 紲

 思わず携帯電話を投げ捨てそうになり、桐子は慌てて思いなおした。
 いや、投げつけたら壊れるでしょ確実に。一人ごちてため息をつく。
「はろ、桐子姫」
「ん~」
 誰もいなくなった放課後の教室。椅子に座り ...

終古 紲

「依沙(いさ)にとってさ、雨ってなに?」
「――はぁ?」
 俺昨日ケータイの機種変したんだけど、どう? とか言っていた宰蔵(さいぞう)が突然切り出した話についていくことができず、依沙は思い切り顔をしかめた。何故にこいつ ...

終古 紲

 抱えた腕の痛みが、いやにリアルで。かすれた息が近すぎて。細めた目が、やわらかに見つめていた。
「……」
 名前を、呼ばれた。震える腕がのびてきて、頬に触れた。そこで彼は、自分が涙を流していることを、知った。

終古 紲

 雑誌の立ち読みは、お断り。
「……何の用?」
「オカイモノですヨ」
 三十分近くも読んでた雑誌をやっとラックに置いたと思ったら、缶コーヒー(ホット)を恭しく差し出しやがった彼は、悪ぶれることなく無邪気にそう言 ...

短編・掌編

 一番落ち着く場所はトイレなんだと言ったらそうか、と頷かれた。
 確実に一人になれる場所というとここしかないじゃない。そう力説したら、まあそうだよねぇ、と笑った。
 便座に座ってカタログめくるのが至福なんだよ。換気扇の ...

短編・掌編

 私は、人形の髪の毛を切っていた。
 ジャク、ジャク、ジャク、ジャク、ジャクジャク。
 鋏を入れる度に、髪の毛はどんどん短くなる。
 ジャク、ジャク、ジャク、ジャク、ジャクジャク。
 長かった髪の毛はみ ...

短編・掌編

 すらりと抜かれた刃に、彼女は目を細めた。
 そんな彼女の反応は気にも留めず、刀護(かたなもり)は鞘を無造作に腰紐へ押し込み、刀を右手に握った。
 とはいえ、構えるでもなく腕はだらりと下げたままだ。
「……あー ...